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高楼方子『時計坂の家』感想と世界観|魅惑に潜む怖いものとは

児童小説
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「忘れられない本がありますか」と問われたなら、私は迷わずこの『時計坂の家』を選ぶでしょう。

本を手にしたときのワクワクした気持ち。ページをめくるのがもどかしいほどの没頭。

読み終わった後には、満足感とも達成感とも違う感情でいっぱいになります。

重大な秘密を知ってしまったかのような。

この物語には得体の知れない何かが確かにあるのです。

本を読む前と読んだ後では世界の見え方が変わるかもしれない、きっと忘れられない読書体験となるでしょう。

ではまず物語の概要を押さえておきます。

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『時計坂の家』概要

『時計坂の家』の概要をまとめてみました。

  • 作者の高楼方子(たかどのほうこ)は1955年、北海道函館市に生まれます。本作の舞台となる汀館(みぎわだて)は作者の故郷に面影がある街です。
  • へんてこもりにいこうよ』『いたずらおばあさん』で路傍の石幼少年文学賞を受賞。絵本・幼年童話・児童書と沢山の著書が刊行。
  • 時計坂の家』と同じく高学年向きの作品として、『ココの詩』『十一月の扉』『緑の模様画』などがあります。
  • 表紙と挿絵は高楼方子の実姉である、千葉史子(ちばちかこ)が描く。

リブリオ出版が閉鎖になり、福音館書店から装いを新たに刊行。

新版も旧版と見た目はほぼ同じで、題名の文字表記が変わっていますが世界観は継承されています。

たまに昔の表紙とまったく違うデザインになり、残念な気持ちになりますが本作は大丈夫です。

shogo
shogo

美しい装丁。物語の世界を想像せずにはいられないです。

それではいよいよ本編を紹介します。

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『時計坂の家』要約

十二歳になる少女フー子の元に届いた、同い年の従姉妹マリカからの手紙。

そこには夏休み、祖父が住む汀館(みぎわだて)の街に来てほしいと書かれていました。

憧れのマリカを想い、胸をときめかせるフー子は一人列車に乗り汀舘へと向かいます。

窓の向こうに現れた園

汀館は異国情緒漂う港町です。

海を望む坂道に建つ時計塔、そのすぐそばにある祖父の家。

若くして祖母を亡くし、気難しい変わり者と母から聞かされていた祖父は、てきぱきと仕事をするお手伝いのリサさんと暮らしています。

薄暗い部屋にはピアノがあり、その上に並ぶロシアの人形マトリョーシカ。

フー子はピアノを奏でる美しいマリカの姿に思わず吸いこまれます。

ある日フー子は祖父の家で、変わった場所にある階段を発見。

数段しかない階段の先には窓があり、壁には懐中時計がかけられていました。

手に取ると時計がみるみるうちに花へと変わり、窓の外を見るとそこには緑の園が――。

ぼんやり、ぼんやり、緑の景色があらわれる。

牡丹色の霞の中から、ふうわり、ふうわり、立ちあらわれてくるのだ。

『時計坂の家』表紙、扉より引用

深まる謎

階段に繋がる窓について祖父に聞くと、昔は物干し台に繋がるドアになっており祖母が落ちたと言います。

その後、危険だからとりこわしたと。しかし祖父は多くを語りません。

園の秘密を探るフー子は祖母の友人だった老夫人に、祖母の行方は結局わかっていないと聞かされます。

フー子は祖母が緑の園を見たのでは、と考えずにはいられません。

懐中時計と塔の時計を作ったのは、かつてこの地に訪れたロシア人の時計師チェルヌイシェフという人物でした。

はたして彼はいったい何者なのか、祖母の行方は、謎はさらに深まります。

魅惑に向かって

汀舘にはマリカの従兄弟で中学二年生の映介という少年がいます。

快活で頼りになる映介とともに、緑の園を取りまく謎を探る二人。

時計師チェルヌイシェフの過去に慎重な姿勢で迫る映介は、フー子にも園へ行くときはくれぐれも注意するようにと言います。

しかし緑の園への誘惑に惹きつけられるフー子は、園の奥へ奥へと向かうのでした。

次に物語を読んだ感想を伝えます。

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『時計坂の家』感想

十二歳の少女が、祖父の暮らす街で過ごすひと夏の不思議なファンタジー、だけでは語れない重厚さがあります。

この年頃に抱く他者への憧れや劣等感、また大人に対する思いがフー子の心と体を通してしっかりと描かれます。

物語に漂う雰囲気が隅々まで美しく、込められたテーマも児童文学の枠を超えた深いものです。

shogo
shogo

怖かった……濃密な物語に引き込まれ、頭がボーっとなります。

幻想的かつリアルな世界観

情景描写が丁寧で文章を読んでいると、物語の世界が目に浮かんできます。

街のふとした風景から何気ない小物までが、表情豊かに描かれ、うっとりとするでしょう。

少しずつ夕闇が迫る街は、透明な水色をしていた。『時計坂の家』38ページより引用

物語に出てくる一つ一つの言葉や響きが魅力的で、例えば、熾天使(してんし)・からくり時計・ジャスミン・マトリョーシカなど………。

高学年の児童には少し難しい言葉も出てきますが、五感が刺激され想像力が膨らみます。

とにかく続きが気になるストーリー

まず緑の園とは何なのかという大きな謎があり、そこにいくつもの謎が加わります。

主人公のフー子が謎に向かって突き進む様子に自らを重ね、疾走感と危うさを感じながら読む手が止まりません。

絶えず美しさと不穏な空気に包まれ、迫ってくる何かとともに物語に引きずり込まれます。

込められた問いかけについて考える

美しさや不思議さといった、児童書の王道だけではない、心に突き刺さる問いかけがあります。

思春期から大人へと成長する途中で現れる魅惑。

人それぞれ違いますが、確かに存在する何か怖いもの。

登場人物たちの魅惑に対する考え方や行動は様々です。

フー子や祖母のように惹きつけられる人。注意する人や、誘われない人。

また祖父のように断固拒絶する人まで。

ただ魅惑に対しての距離感を見誤ると、怖ろしい結果になるかもしれません。

惹きつけるものの方ではなく、どうしようもなく惹きつけられてしまう心の方――。『時計坂の家』309ページより引用

もし自分がフー子のように魅惑と出会ったら、どうするだろうか、と考えます。

『時計坂の家』どんな人におすすめ

『時計坂の家』は次のような人におすすめです。

  • 読書の楽しさを味わいたい人
  • 思春期の少年少女から大人まで
  • 特別な一冊を探している人

美しい世界観・謎・深いテーマと三拍子そろった物語です。

本を読むのが苦手な人でも、細かく章が分かれていて読みやすく、続きが気になり物語の世界に入り込めます。

また高学年の児童にとってはフー子の気持ちがより近くに感じられ、ずっと心に残るのではないでしょうか。

児童書ではありますが、歳を重ねて読むからこそ、より深く様々な登場人物たちの気持ちが理解できる。

大人にとっても読みごたえのある、とっておきの一冊となるでしょう。

終わりに|言葉では言い表せない怖さがある

読み終わった後に深い余韻が残ります。

謎が全て解き明かされるわけではありません。

だからこそ想像する余白があり、色々な解釈ができます。

「こういうことなのか」という一定の理解はできますが、物語をすべて解明できず心に深い問いかけが残ります。

緑の園とはいったい何だったのか、と。

得体の知れないものは確かにあり、読むたびに魅惑と、物語の根底に潜む怖さを味わえるでしょう。

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