テニス好きの私はこの小説を本屋さんで見かけたとき、思わず手が伸びてしまいました。
『テニスコートの殺人』というタイトル。
どうですか?想像力がかき立てられますよね。
自分がいつも見ているテニスコートという視認性の良い場所で、いったいどんな殺人事件が起きたのか?
いやでも想像してしまいます。
この記事を読むと著者の紹介や、物語の概要、要約と感想がわかります。
まず初めに物語の概要を見ていきましょう。
『テニスコートの殺人』の概要
『テニスコートの殺人』の概要をまとめてみました。
次は小説の読みどころについて押さえましょう。
『テニスコートの殺人』要約
事件の舞台はニコラス・ヤング博士邸にあるテニス・コートで起こります。
テニスをしていた四人の男女が、途中嵐に見舞われゲームは終了。
嵐が通り過ぎた後、テニスコートの真ん中あたりで、フランク・ドランスの絞殺死体が発見されます。
死体を見つけたのはフランクの婚約者ブレンダ・ホワイト。
コートにはフランクの足跡と、ブレンダが死体まで往復した足跡のみ。
そこへブレンダに好意をもつ弁護士のヒュー・ローランドが通りかかります。
ブレンダから死体のそばまでは行ったけれど「私は殺していない」と聞かされます。
彼女を助けるために足跡に対する策を練る二人。
そんな彼らに警察と名探偵ギディオン・フェル博士が事件の謎に迫るのでした。
個性豊かな登場人物たち
『テニスコートの殺人』の登場人物たちは、みんな個性豊かです。
ここでは主要登場人物たちを把握しておきましょう。
フェル博士シリーズである『テニスコートの殺人』では、フェル博士は事件の謎を解明していきますが、登場する場面は全体的に多くはありません。
しかし、その存在感は強烈で登場の場面は印象深いです。
主人公のヒューが部屋の中からブレンダに、テニスコートのフェル博士を指さします。
途方もない巨体で大型のテントのような黒いマント姿、白髪交じりのもじゃもじゃ頭にはちきれそうなシャベル帽をかぶった男だった。(中略)自分の名が聞こえたかのように、フェル博士が巨大ガリオン船のように方向転換し、灯りの点いた家を見てまばたきした。『テニスコートの殺人』132~133ページより引用
この出で立ち………ただ者ではない探偵像が目に見えるようです。
殺人事件と謎
みなさんが読む楽しみを奪わないように、事件と謎について多くは語りません。
事件が起こった簡単な状況と謎にについてだけ整理しておきます。
それぞれの推理で謎にせまる
はたして犯人は自分の足跡をつけずに、どうやってテニスコートの中央まで行き犯行を実行したのか?
登場人物たちがそれぞれ謎に迫っていきます。
ヒューはブレンダを助けるため、警察に嘘をつきながら。
そしてその嘘に振り回されながらも、警察官ハドリーとフェル博士は謎に迫ります。
二人は推理をするなかで、たびたび激論をかわします。
答えを急ぐハドリーに対して、ひとつひとつの証拠や想像力をもって謎に挑むフェル博士。
やがて容疑者に浮上する曲芸師アーサー・チャンドラー。
チャンドラーが犯人だと、自分の考えを固める老博士ニック。
自らの推理を主張する登場人物たちは、お互いに激しくぶつかります。
やがてフェル博士だけが、この事件の糸口をつかむのでした。
この事件の問題は、真相が目立ちすぎて見えないことだよ。あまりにはっきりしているから、かえって誰も気づかない。『テニスコートの殺人』286ページより引用
それでは私が物語を読んだ感想を伝えます。
『テニスコートの殺人』感想
まず「テニスコートで殺人が起きる」という、分かりやすいテーマがあるので話にすぐ引き込まれます。
しかしなかなか謎の真相が解けずに、続きが気になりページをめくる手がとまりません。
読んでいるとそれぞれの登場人物たちが事件について仮説をたて推理をします。
会話から真相にまつわる着眼点やヒントが散りばめられ、読者も一緒に事件の謎を考えながら読み進めることができるでしょう。
物語にスピード感がある
まるでテニスのラリーを見ているようなテンポのよい会話の応酬が楽しめます。
推理小説というとトリックが複雑だったり、人間関係の把握がややこしかったりするのではないでしょうか。
しかしこの小説は一章一章が約20ページと細かく分かれていて、話の展開にもリズムがあり集中して読めます。
また事件は起きますが、決して重くはなく読後も爽やかです。
空気感が漂う
事件現場となるテニスコートが目に浮かび、周辺のあずまや(庭園などに休憩する目的で作られる建物)や、ニックの邸宅など舞台を流れる空気感があります。
またヒューたちと曲芸師チャンドラーが劇場で話をする場面も、空中ブランコや劇場の情景描写が豊かで雰囲気を感じることができます。
人物たちの会話と情景が重なり、物語の世界に引き込まれるでしょう。
登場人物たちが魅力的
登場人物はみんな個性的で、血が通っていて生き生きとしています。
数はそれほど多くはありませんが主になる人物たちはもちろん、脇役にもひねりがあり物語のスパイスとして存在感たっぷりです。
そんな人物たち同士が織りなすストーリーがいくつも楽しめます。
例えばヒューとフランクがブレンダをめぐって争う三角関係、ハドリーとフェル博士の捜査でのぶつかり合い。
ニックの考察や、ヒューたちとチャンドラーのスリリングな会話など。
それぞれに思惑をもち、時には何かを隠しているような駆け引きにハラハラするでしょう。
では具体的にどんな人に読んでほしいかを伝えます。
『テニスコートの殺人』はどんな人におすすめ?
『テニスコートの殺人』は次のような人におすすめです。
終始テニスの雰囲気や空気を感じながら、ミステリーをたっぷり楽しめます。
海外小説をあまり読んだことがない人でも大丈夫。
カタカナの名前が苦手な人も、個性豊かな登場人物たちで頭に入りやすく物語に集中できます。
謎解きはもちろん男女のロマンスや人物の対立といった、迫力ある心情描写も楽しめるバランスの良い作品です。
またホラー要素のある作品を書くカーですが、本作にはそういった要素はありません。
そのため本格ミステリー初心者や、ディクスン・カーが初めての人も巨匠といって尻込みすることなく読み進めることができるでしょう。
終わりに|本格ミステリーと人間模様が読みごたえあり
さすがはミステリーの巨匠が描く小説。情景描写や会話の質が高く読みやすい文章です。
謎解きはもちろん、登場人物たちの人間模様が鮮やかに描かれます。
テニス好きな私とっては、作品に漂う空気感が心地よかったです。
『テニスコートの殺人』は数あるディクスン・カーの作品のなかで、代表作ではないのかもしれません。
けれど要所要所に仕掛けがあり読んでいて楽しく、ぐいぐい読ませる構成力が光ります。
物語の世界に浸るという、最も基本的な読書の楽しさを存分に味わえる作品です。
テニスをする人は、これからコートを見るたびにこの小説を思い出すのではないでしょうか。
『テニスコートの殺人』をきっかけに、沢山あるディクスン・カーのフェル博士シリーズを読んでみたくなるそんな小説です。
コメント
記事を読ませていただきました。
まだ読んだことがない作家さんなので、読んでみようと思います。
またおすすめがあれば教えて下さい。
みけねこさん、はじめまして。
記事をお読みいただき、コメントまでありがとうございます。
励みになります(^^)/
みけねこさんが既に読まれていらっしゃるかもしれないですが、以下におすすめのミステリー3冊を紹介しましたのでご参考ください。
【おすすめ】
⒈国内ミステリー
・『新参者』東野圭吾
→言わずと知れた著者でどの作品も好きなのですが、刑事、加賀恭一郎シリーズです。東京日本橋人形町を舞台にした連作短編集で、人情と謎解が楽しめるライトな作品です。読後も爽やかで箸休めにいかがかと。
⒉その他
・『向日葵を手折る』彩坂美月
山形の集落に引っ越すことになった小学6年生の高橋みのり。その地で起こる事件。不穏な空気と瑞々しさが解け合う夏の季節に読みたい一冊です。単行本のみですが機会があれば。
⒊海外小説
・『コフィン・ダンサー』ジェフリィー・ディーヴァー
→リンカーン・ライムという四股麻痺の捜査官シリーズ物です。体は不自由なのですが頭脳明晰でキレッキレッの捜査官が、同じく頭が切れる犯人を追うミステリーです。登場人物、謎、物語構成が秀逸でページを繰る手がとまりません。